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「生成AIを使えば、これくらいすぐできるよね?」
Web制作の現場で、この一年ほどでよく聞くようになった言葉です。
実際、以前なら丸一日かかっていたコーディングが、数時間で終わることもあります。構成案のたたき台や調べものも、生成AIを使えばかなり速くなりました。
では、仕事が早く終わるようになって、毎日に余裕ができたか。
少なくとも私は、そうは感じていません。
生成AIで速くなったのは仕事の一部だけです。作れる量が増えた分、確認や判断も増え、空いた時間には次の仕事が入ってきます。
この記事では、生成AIを使っても仕事が楽にならない理由を、Web制作の現場で感じていることに絞って整理します。AIが良いか悪いかではなく、使うことが当たり前になった今、制作する側が何を守った方がよいのかという話です。
生成AIで速くなった作業と、変わらない作業
生成AIは、手を動かす工程を速くしてくれます。
一方、Web制作の仕事は、コードや文章が出てきたら終わりではありません。
| 速くなった作業 | 人が引き続き行う作業 |
|---|---|
| HTML・CSSのたたき台 | 依頼内容と要件の確認 |
| JavaScriptの処理作成 | 既存サイトへの影響調査 |
| エラー原因の候補出し | PC・スマホ・ブラウザでの確認 |
| 文章・構成案の作成 | 内容の事実確認と調整 |
| 調べものの整理 | クライアントへの説明と修正対応 |
「生成するまでの時間」は短くなりました。しかし、仕事として納品できる状態にするまでの時間が、同じ割合で短くなるわけではありません。
ここを一緒にすると、「AIならすぐ終わるはず」という話になってしまいます。
生成AIを使っても仕事が楽にならない5つの理由
1. 速くなったのは制作工程の一部だけだから
生成AIは、指示したものを形にするのが得意です。
ただし、その指示が正しいか、作るものが目的に合っているかまでは、自動で決めてくれません。
Web制作なら、依頼内容を整理し、既存サイトの構造を確認し、公開後の影響まで考える必要があります。コードを書く時間が半分になっても、要件整理や確認の時間まで半分になるとは限りません。
むしろ、作る前に考える仕事と、作った後に確かめる仕事の割合が大きくなっています。
2. 作れる量と一緒に、確認する量も増えるから
生成AIを使えば、短時間で複数の案を出せます。
しかし、案が3つ出てきたら、確認する対象も3つになります。コードを多く生成すれば、読むコードも増えます。
とくにWeb制作では、見た目が整っているだけでは判断できません。
- スマホで崩れていないか
- フォームは実際に送信できるか
- 既存のJavaScriptとぶつからないか
- 更新画面から入力した内容が正しく表示されるか
- 公開後に検索や計測へ影響しないか
こうした確認をせずに納品することはできません。
生成AIが出したものは完成品ではなく、確認を始めるための材料だと思っています。
3. 空いた時間に、次の仕事が入るから
一つの作業が速く終わると、依頼する側からは余裕が生まれたように見えます。
「これも今日中にいけるよね」
「ついでに、こちらも直してほしい」
「AIを使えば、もう一案出せるよね」
一つひとつは小さな追加に見えます。しかし、それが重なると、浮いたはずの時間はすぐになくなります。
たとえば、以前8時間かかっていた作業が、生成AIを使って5時間で終わるようになったとします。そこへ別の5時間分の作業が入れば、合計は10時間です。
作業は速くなっています。こなした量も増えています。それでも残業になる。
実際、パーソル総合研究所の調査でも、生成AIの利用者で業務時間が減った人は約4分の1にとどまり、削減できた時間の6割以上が再び仕事へ使われたと報告されています。
この数字は、私が現場で感じていることとも重なります。
4. 受ける仕事の範囲まで広がるから
生成AIによって、会社が受けられる仕事の範囲も広がりました。
これまでWebサイトを中心に作っていた会社でも、Webアプリやシステム寄りの相談に対応できる場面が増えています。触ったことのない言語でも、AIに聞けば、それらしいコードは出てきます。
ただ、コードを出せることと、その内容に責任を持てることは同じではありません。
新しい領域の仕事を受けるなら、学ぶ時間やテスト環境、レビューできる人が必要です。そこが以前のままで案件だけが増えると、担当者がAIに相談しながら、知識と体制の不足を埋めることになります。
動いてはいる。でも、本当にこの実装で大丈夫なのかを社内で確認できない。
これは、単に仕事量が多いこととは違うしんどさがあります。生成AIで対応範囲を広げるなら、確認する体制も一緒に広げる必要があります。
5. 短い納期が新しい基準になるから
一度、当日依頼を当日中に返すと、それが次からの基準になりやすいです。
本来2〜3営業日で回していた作業なら、生成AIで早く形になったとしても、その運用まで毎回崩す必要はないと思っています。
早く提出できる日があることと、いつでも即日対応できることは別です。
平常時に余白を使い切ると、本当に急ぎの対応が入ったときに逃げ場がなくなります。AIがうまく答えられない案件や、既存サイト側に問題があった案件も、予定どおりには進みません。
一度短くなった納期は、元へ戻しにくい。だからこそ、速くなった時間を最初からすべて差し出さないことが大切だと思っています。
Web制作では「生成時間」だけで見積もれない
生成AIなら、コードを書く時間は短くできます。
しかし、見積もりに必要なのは、コードを書く時間だけではありません。
- 依頼内容を確認する
- 実装方法を決める
- コードを書く
- 表示と動作を確認する
- 修正する
- クライアントへ説明する
- 公開して、もう一度確認する
生成AIが大きく短縮するのは、主に3番です。内容によっては2番や5番も助けてくれますが、すべてを自動で完了するわけではありません。
「コードは10分で出たから、10分の仕事」という見方では、残りの工程が抜け落ちます。
とくに既存サイトの修正は、新規でコードを書くより、現在の状態を調べる時間の方が長いこともあります。生成AIを使う前に必要な作業まで、見積もりから消してはいけません。
生成AIに振り回されないために守りたいこと
生成AIを使わないという選択は、現実的ではありません。私自身、コーディングにも文章作成にも使っています。
便利だからこそ、使う側の運用を決めておく必要があります。
確認時間を最初から作業に含める
AIが出したものを読み直し、表示や動作を確認する時間は、追加作業ではありません。納品するために必要な本来の作業です。
生成時間だけを基準にせず、確認と修正まで含めて納期を考えます。
AIを前提に納期を削りすぎない
早く終わった時間は、修正や不測の事態に使える余白でもあります。
毎回その余白まで見積もりから削ってしまうと、少し想定外が起きただけで破綻します。通常の案件で余白を残すことは、緊急時に対応するためにも必要です。
増えた仕事量を記録する
生成AIで速くなったとしても、以前より多くの案件や作業を処理しているなら、それは成果です。
黙って吸収すると、「同じ時間でこれだけできる」が新しい標準になります。何件対応したのか、何を追加で行ったのかは、制作する側も記録しておいた方がよいと思います。
対応できることと、責任を持てることを分ける
生成AIに聞けばコードが出るとしても、社内で確認できない領域まで安易に受けないことも必要です。
テストできるのか、問題が起きたときに直せるのか、公開後も保守できるのか。そこまで含めて、仕事として対応できるかを判断します。
生成AIで生まれた力を、自分のためにも使う
生成AIによって、一人でできることの範囲は確実に広がりました。
会社の仕事だけに使えば、処理できる案件数が増えて終わるかもしれません。でも、その力の一部を自分のサイトや発信、学習に使えば、自分の名前で残るものを作れます。
私が子育て中のWeb制作副業について書いた記事や、AIを活用して未経験からコーディング副業を始めるロードマップを公開しているのも、その一つです。
会社の仕事をおろそかにするという意味ではありません。
生成AIでできることが増えたからこそ、その力をすべて次の依頼へ渡すのではなく、少しは自分の側にも残しておきたいと思っています。
まとめ:速くなった時間を、最初から埋めない
生成AIを使っても仕事が楽にならない理由は、単純にAIの性能が足りないからではありません。
- 速くなったのは仕事の一部だけ
- 作れる量と一緒に確認する量も増える
- 空いた時間に次の仕事が入る
- 受ける仕事の範囲まで広がる
- 短い納期が新しい基準になる
生成AIは便利です。ただ、AIが作った余裕をどう使うかまでは決めてくれません。
だから私は、生成するまでの速さだけで納期を決めないこと、確認する時間と緊急時の余白を残すこと、増えた仕事量を見えないままにしないことが大切だと思っています。
速くできるようになった時間を、最初からすべて次の仕事で埋めない。
それが、生成AIを長く仕事で使っていくために、いま必要なことではないでしょうか。